一対何が起こったのか敵も味方も訳が判らなかっただろう。
突然『影』が吐血し大地に倒れ伏す等想像すらしえなかったのだから。
そして被害者である『影』ですら何が起こったのか認識できなかった。
ただ突如全身を激痛が襲い、何かによって体中を破壊されたとしか認識出来なかった。
これの全容を知るのはただ一人、
「ふう・・・爺さん、あんたなんつー桁外れの置き土産残したんだよ・・・」
硝煙を吐き出すコンテンダーを手にしてやや引きつった笑みを浮かべる士郎だった。
三十四『不屈』
全容はこうだ。
ブリューナクをヘラクレスが防御し破壊しようとする寸前、士郎は
「刻印起動(キーセット)、時間領域(ゾーンタイム)・・・・・・(固有時制御三倍速)」
固有時制御をもってブリューナクをもってこじ開けたスペースを疾走し一気に三十メートルまで接近、そこで電光石火の如く、コンテンダーを抜き、発砲、そして踵を返して最初の場所まで戻ってきた。
安全性を考えれば、移動する事無くその場所での発砲が万全だが、銃器の扱いなど素人の士郎が数百メートル離れた距離、それもスナイパーライフルなら話も変わるが拳銃を使っての命中等いくら標的が大きくても命中させる事は至難の業。
それ故に、士郎はあえて危険を犯して、突っ込んだ。
ここまで距離を詰め、更にヘラクレスの影も巨大なのだから命中率に問題はないし特に狙いを定める必要は無い。
どこかに命中すればそれで事は足りる。
防衛の為『影』がヘラクレスの影に命令を集中させた事はすなわち、魔力がヘラクレスの影に集中した事。
その状態で切嗣の魔弾が命中した事で魔力を通じて魔弾の効果は『影』の魔術回路に反映され、その効果で『影』の魔術回路は完膚なきまでに破壊され、行き場をなくした魔力は『影』の体内を暴走、肉体をも完全破壊してしまった。
いまだ息はあるが、この状態ではまもなく死亡するだろう。
そこまで確認してからおもむろに士郎は留め金に指をかけて、短剣に付着した血を拭うかのように上から下へ勢い良くコンテンダーを振り下ろす。
同時に留め金を外し、装填されていた魔弾の空薬莢が遠心力に乗って、外に排出される。
念の為、新たな魔弾を装填して、コートに仕舞う。
先程まであれほど自分に殺意を向けて殺到していた影達も借りてきた猫のように大人しくなってしまった。
これで勝負は決した。
油断とは程遠い位置に立つ士郎ですらそう思った。
それ故に次の光景を直ぐには信じる事は出来ずにいた。
痙攣も弱まり、絶命寸前の『影』の傍らに見覚えのある影が一体近寄る。
そしておもむろに手に持つ何かの影を『影』にかざす。
それを見た瞬間、士郎の顔色が変わった。
「まさか!」
そう呟くのとそれが無数に分解され『影』の体内に入るのとはほぼ同時だった。
同時に士郎が『影』に止めをさそうと駆け寄ろうとしたが、その行く手を再び動き始めた無数の影の軍勢が阻む。
「くそっ!」
咄嗟に後退し、再び諸葛弩を起動、次々と矢は突撃を敢行してきた影の軍勢を押し留める。
「・・・今のは本当に死ぬかと思ったぞ」
そこにやや苦笑気味の『影』の声が響く。
「何をやったのか判らぬが俺の体内をここまで破壊し尽くすとはな」
「普通だったらあれで勝負はきまっていたはずなんだけどな」
士郎の言葉は負け惜しみでもなんでもない。
現に切嗣が現役時に撃った魔弾は二十八発、その中に浪費はたった一発、残りは正確に同じ数の魔術師を完全破壊してきた。
ただ一発の浪費も相手の特殊性による所が大きく、まさか真正面から打ち込んだ魔弾を治癒される等想像の外だった。
「決まっていただろうな。この地が『影の帝国(シャーテン・ライヒ)』でさえなければ・・・そして騎士王の影を従えていなければな」
「まさか・・・アルトリアの『全て遠き理想郷(アヴァロン)』を使用できるとはな・・・」
「あれだけではない。この帝国において影達は実体が担いし宝具を使う事が出来る・・・例えばこんな風に」
そういうや影の軍勢が今度は自分達から二つに割れる。
その視線の先には、弓を引くヘラクレスの影。
「!!シロウ避けろ!!『射殺す百頭(ナイン・ライブス)』だ!!」
後ろから聞こえるヘラクレスの大声が無ければその場に留まっていただろう。
咄嗟に右に飛び出し、間髪を入れずにヘラクレスの影より撃ち出された『射殺す百頭(ナインライブス)』が諸葛弩を残らず破壊する。
「くっ!投影開始(トレース・オン)、接続完了(リンク・セット)吹き荒ぶ暴風の剣(カラドボルグ)!」
振りぬいた剣が射程上の影諸共、ヘラクレスの影を切り裂き、ただの影に還す。
しかし、諸葛弩という防壁を無くした士郎に影達はここぞとばかりに殺到する。
「くそっ!抜け目無い奴らだ!投影開始(トレース・オン)接続完了(リンク・セット)猛り狂う雷神の鉄槌(ヴァジュラ)!!壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」
殺到する影達に対して間髪を入れず、ゲイボルグの能力を付加させたヴァジュラが瞬時に無数に分裂し、間髪入れずに唱えられた詠唱で爆発、次々と四散していく。
だが、後方からは無数の影達がその隙間を埋めていく。
「くそったれ!投影開始(トレース・オン)接続完了(リンク・セット)!」
士郎の手には夫婦剣『干将』・『莫耶』が握られ影の軍勢と斬り合いを始める。
迫り来る影の軍勢を相手に士郎は半ば舞うように、手際よく一太刀だけ斬り付けながら敵と対峙し続ける。
実際一太刀で十分だった。
斬り付けられた影達は次々とただの影に戻っていく。
一見すると士郎が互角の戦いを繰り広げているように見えるが実際は最初から押されっぱなしだ。
破戒の短刀の能力を接続させた夫婦剣、影達が一太刀で消えていく数少ない有利、そして死都における一対多人数の戦闘に士郎がある程度慣れている。
この三つが一つでも欠けていればとっくに士郎は影の軍勢によって原型を留めないほど斬り捨てられていた筈だ。
だが、どう足掻こうと多勢に無勢、いくら消えて行こうとも次から次へと補充の影は後方からやってくる。
少数を持って大軍を駆逐していく。
ゲームやアニメ等では良くある設定だが、現実ではそうも行かない。
何故、少数が大軍を打ち破る事がすごく見えるのか?
答えは単純明快、そのような事自体が奇跡の類の出来事だからだ。
一人が勇戦した所で高が知れている。
倒しても倒しても無尽蔵に出てくる敵を前にして人は最初こそ気を張るがいずれは必ず気力も尽きる。
尽きた後待っているのは一方的な虐殺のみ。
だからこそ敵よりも多くの兵を揃えて戦う事が兵法において基本中の基本とされる。
今の士郎は文字通り孤立無援でかろうじて奮戦している。
だが、それももう長くは持たない。
援軍を頼もうにも後方にいるメンバーの内、凛達魔術師は魔力の大半を失い英霊であるアルトリア達は魔力こそ十分だがいまだ麻痺が取れない。
アルトリア達の麻痺が取れればかすかに希望もあるが、そこまで自分がこの戦線を維持できるかどうか極めて不透明。
そうなればこれ以上の抵抗はジリ貧、やがては破局が見える。
勝つ術があるとすれば、唯一つ、この世界の主である『影』を一撃で尚且つ確実に倒すしかない。
(一か八か・・・あの手段に打って出るしかない)
失敗は許されない、手段の方法上、一回だけしか使えない。
しかし、この方法に全てを賭けるしかない。
後の事等知った事ではない。
一つ頷くや『干将』と『莫耶』を同時に投擲、周囲の影達を一時的にだが掃討する。
時間的余裕が僅かだが出来た瞬間、
「投影開始(トレース・オン)、接続完了(リンク・セット)、二重接続(ダブル・リンク)、大神宣言(グングニル)!」
破戒の短刀と雷神の鉄槌、二つの能力を重ね合わせた大神の槍が投擲される。
更には
「大神宣言(グングニル)!」
同時に創られていながら、時間差でもう一本のグングニルが投擲される。
二本のグングニルは立ち塞がる影達を残らず切り裂き影に還し、『影』に迫るが、その寸前で破壊される。
しかしこれにより再び影の軍勢の壁が消え、士郎と『影』の間に一本の道が出来る。
「投影開始(トレース・オン)」
その手に握られるのはアルトリアの聖剣、士郎が現状投影可能な宝具の中でも最も威力が高いのはこれしかない。
「封印魔術回路開放(マジック・サーキットナンバー]]Y、]]X、]]Wホルスターオープン)」
宝具使用の為に身体への負担覚悟で三つの回路を同時に開放する。
更に
「刻印起動(キーセット)時間領域(ゾーン・タイム)」
刻印を起動する。
「・・・・・・(固有時制御・・・十倍速)!」
その瞬間、士郎の身体は文字通り疾風と化し道が塞がれる前に一気に数百メートルを駆け抜けた。
「!!」
目の前には驚愕に満ちた『影』がいる、障害は何も無い。
固有時制御の反動が来る前に剣を振り下ろさないと負ける。
「約束された(エクス)・・・!!」
だが、その時、恐れていた事が・・・固有時制御が切れて、身体にその反動が襲い掛かる。
強大な反動は強化されていても尚、大きく士郎の筋組織を次々と寸断し、内臓に深刻なダメージを与え、骨にひびを入れていく。
意識を手離しかける激痛が声も出せない激痛が、士郎の身体を絶え間なく襲い掛かる。
口の端から一筋の血が流れ落ちる。
だが、それでも自身の意識をぎりぎりで繋ぎとめて改めて振り下ろす。
「勝利の剣(カリバー)!」
アルトリアの本物と比べればかなり見劣りするが、それでも威力は十分、おまけに至近距離での発動となれば『影』の身体を消滅させるには事足りる。
この時、士郎が激痛で硬直させたのは一秒にも満たなかった。
普通であればこの程度の時間、取るに足りないはずだった。
しかし、この戦いにおいては一秒にも満たない隙が致命傷となる。
「・・・ちくしょう、まさかここで・・・」
「・・・俺は本当に臣下たる影に恵まれた・・・」
勝った筈の士郎からは何かに対する罵声が、消滅したはずの『影』からはやはり何かに対する感謝の念が口から零れる。
士郎の『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を受けたのは『影』ではなかった。
咄嗟に『影』を突き飛ばしたヘラクレスの影だった。
この零距離での直撃にさすがのヘラクレスの影も消滅している。
だが、これにより最大のチャンスを逃した事に間違いない。
だが、士郎には落胆する時間すら与えられなかった。
自分の前方、すなわち『影』の後方から超高速で迫る何かを捉える。
それは影の天馬。
「!!刻印起動(キーセット)空気領域(ゾーン・エアー)、我が周囲の空気は鋼鉄となし、我の敵全て阻む(アイアン・エアー)」
何が来るか悟った士郎は少しでも動かせばさいなまれる激痛と戦いながらも刻印を起動させて空気の壁を創り出し、間髪を入れる事無く、
「投影開始(トレース・オン)、・・・・・・・(身体は剣で出来ている)熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)」
花弁の盾がの二段構えで防衛体勢に入った。
そうも時間をかける事もなく、影の天馬が・・・メドゥーサの『騎英の手綱(ベルレフォーン)』を行使して全能力を開放した状態で・・・突っ込む。
花弁が次々と破壊されていき、余波で空気の壁も破壊されつつあるが、それでも士郎は魔力を注ぎ込み続け、残り一枚の花弁とひびが入りかけた空気の壁を残してようやく天馬は止まる。
しかし、その後ろからあろう事か影の戦車が天馬に勝るとも劣らない速度で突撃を慣行しようとしていた。
「メドゥーサの次はイスカンダル陛下だ!大盤振る舞いにも程があるだろう!形状変更(エアー・オフェンス)空気の壁は空気の散弾となり、周りの敵をなぎ払う(ショット・エアー)!我が手に集まりし空気、砲弾となり我が敵を滅ぼす(キャノン・エアー)!!」
立て続けの詠唱と同時に士郎の身体はメドゥーサの影が跨る影の天馬と、イスカンダルの影が乗り込んだ影の『神威の車輪(ゴルティアス・ホイール)』に天高く跳ね飛ばされた。
士郎の身体は上空を浮遊した後に地面に受身を取る事無く二度、三度とバウンドしアルトリア達の手前まで転がった。
うつ伏せのためその表情は伺えないが、おそらく意識を無くしているのは容易に見て取れた。
かすかに無意識によるものか呻き声をもらす辺り奇跡的に生きている事が伺えた。
実際士郎が未だ生きているのは奇跡だった。
前もって天馬の突進を食い止めていた事と、放った空気の散弾と砲弾で戦車の速度を弱めなければ今頃士郎の身体はミンチ肉と化していた筈だ。
むしろ固有時制御の後遺症が士郎にとっては重傷だった。
後に判明した事だが、既に全身の骨にひびが入り、酷い所ではへし折れ、筋肉組織は至る所が寸断、内臓は強烈な揺り返しと折れた骨が突き刺さりひどく傷付け、もはや虫の息、瀕死だった。
しかしそれが判るのは戦いが終わった後の事、それにそのような事は現状には何の関係も無い。
「・・・あ、ああああああ!!貴様ぁああ!!」
憤怒の咆哮を上げてアルトリアが未だ麻痺の残る身体を強引に突き動かし『影』に向って駆け出す。
ふと傍らを見ればセタンタ、ディルムッドが両脇を固め、その後ろからはヘラクレスが駆け、上空にはメドゥーサ、イスカンダルが天馬と戦車に既に乗り込み、またメディアも浮遊させてやはり『影』に躍りかかる。
皆その表情は怒り、特にあろう事か自分の影をもって士郎を傷付ける形となったメドゥーサ、イスカンダルは文字通り怒髪天を突く勢いだ。
七体の英霊が同時に攻撃を仕掛けようとしているにも拘らず、『影』はどういう訳かこちらを見ようとしない。
代わりにアルトリア達を迎え撃ったのは自分達の影、実体と同じ陣形でぶつかり合う。
一気に蹴散らして『影』の下に辿り着きたいが、自分達の影だけあり、その技量、技の癖全てが同じである以上、どう攻めても、完璧に受け止められる。
メディアの『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』が最大の威力を発揮する所なのだが、士郎ほど戦闘技量がある訳ではないメディアにそれは至難の技。
アルトリア達に手渡そうにも隙を見せれば自分の影に倒されかねない。
典型的な百日手が続く。
膠着した、だが激しい戦いが繰り広げられているにも関わらず、『影』の視線はアルトリア達に向いてはおらず、何処か遠くを見つめ続けている。
「くっ!!私達では相手にもならないと言う事か!」
それを無視と受け取ったアルトリアの怒号に初めて『影』がこちらに視線を向ける。
「・・・何を勘違いしているかは知らぬが、お前たちを脅威と思わないと思った事等一度も無い」
「けっ言いやがる。士郎の時は影を手当たり次第ぶつけておいて俺達には自分の影だけしか当ててねえのはどう言う事だ!」
「・・・先程とは状況が違う。未だ強大な脅威が存在している時に全戦力を差し向ける訳には行くまい」
「強大な・・・脅威だと?」
「それは一体・・・」
そのような事等言われずとも判る。
自分達以外の戦力の内魔術師達は魔力の大半を失い戦力としては脱落している。
そうなれば残るは・・・そこで英霊達は初めて『影』の視線が自分達の後方に向けられている事に気付いた。
まさかと思った。
どれ程重傷なのかは不明だが、立ち上がれるとは思えない。
それに今までたった一人であそこまで戦ってきたのだ。後は自分たちに任せれば良い。
誰もがそう思った。
しかし、その思いは裏切られる。
「士郎!!何でよ何で立つのよ!」
悲鳴交じりの凛の絶叫に振り向けば立ち上がろうとしている士郎を見た。
(いったな・・・ただでさえでも固有時制御のダメージに加えて天馬と『神威の車輪(ゴルティアス・ホイール)』か・・・幸い頭蓋骨と首、背骨は無事みたいだが・・・)
朦朧とする意識の中士郎は、自身に解析を施し体内のダメージを把握していた。
両腕両足の骨は全て折れ、筋組織はかろうじて繋がっている程度に過ぎず、肋骨も殆どにひびが入り何本か折れて内臓もひどく傷付いている。
だが、それ以上にまずい事に、折れた肋骨の内何本か肺に突き刺さっている。
不幸中のかすかな幸運として、脳と脊髄に対するダメージが殆ど無いのが幸いだった。
それでも重傷なのは間違いない事所か、もはや致命傷の領域に入る。
(くそ・・・魔弾も通用せず、固有時制御十倍速で接近してのエクスカリバーも防がれた・・・ここまでか・・・)
そんな思考を最後に意識を手離そうとした時、
「・・・あ、ああああああ!!貴様ぁああ!!」
アルトリアの咆哮が士郎の意識を再び取り戻させた。
かすむ視界に立ち上がり『影』に立ち向かおうとするアルトリアの姿が映る。
(ア、アルトリア・・・無茶だ・・・)
だが、士郎の重いとは裏腹にセタンタ、ディルムッド、ヘラクレス、メドゥーサ、イスカンダル、メディアもまた『影』に向って駆け出している。
そして『影』を守るように現れた自分の影と戦いを始めようとしていた。
(・・・そうだ・・・まだだ・・・まだ・・・皆が戦っているのに・・・こんな所で寝ていられるか・・・)
その姿は士郎の尽きかけていた闘志に再び火をつけた。
指先一本でも動かせば痛みだす身体に鞭を入れて再び起き上がろうとする。
(・・・アキラメロ・・・)
(うるさい)
(・・・モウムリダ・・・)
(黙れ)
(・・・テハツキタ。オマエニカチメハナイ・・・)
(黙っていろ)
そんな士郎に内心から悪魔が囁く。
(・・・ナンデソンナニイジヲハル。イマノオマエニタタカウチカラモスベモナイ。アトハアルトリアタチニマカセテユックリトネムレ・・・)
(・・・って・・・だろ・・・)
(・・・タッタトコロデアシデマトイダ・・・)
(だ・・・って・・・ってるだろ・・・)
(・・・モウムリダ・・・)
(黙れって言ってるだろうが!!)
士郎の咆哮に内心の悪魔は沈黙する。
勝ち目があろうとなかろうと関係ない。
意地だと言われようと知った事ではない。
まだ皆が戦っている以上、こんな所で寝ていられるか。
(そうだ・・・まだ俺は立ち上がれる力もある。まだ魔力も残っている。まだ戦う意思も残っている・・・まだ戦える!)
気付けば自分は既に身体を起き上がらせて中腰になろうとしていた。
全身を痙攣させながら、時に何度か倒れこみながらも立ち上がろうとする士郎をアルトリア達英霊も、凛達魔術師も呆然と見ていた。
自分の攻撃は悉く防がれ勝ち目もあるとは思えない。
それでも立ち上がろうとする士郎の姿は勇敢を通り越して無様で滑稽な物もあった。
だが、誰も嘲笑うものはいない。
それを許せる状況でない事は誰の眼にも明らかだった。
「なんで・・・何でよ・・・何でよ士郎!!あんた良くやったじゃない!!後はアルトリア達に任せれば良いじゃないの!なんでそこまでしてまで立とうとするのよ!!士郎!!」
凛の悲鳴交じりの問い掛けはここにいる全員の心境だった。
そして、それに答えたのは士郎ではなかった。
「・・・同じだからさ」
「え?」
呆然としている一同の中でただ一人、驚きの色すら見せずに彼は断言していた。
「死者であろうと死徒であろうと、人であろうと同じだからさ。どんなに傷付こうともどんな苦難が目の前に立ちはだかろうとも、どんな深い絶望の淵に落とされたとしても、その身を突き動かし、奮い立たせるのはいつでも」
「あああああああああ!!」
「・・・己が肉体に宿りし魂の力だ」
雄叫びを上げながら遂に立ち上がる士郎と笑みすら浮かべて断言する『影』の最後の言葉が交錯した。